既成概念にとらわれないダイナミックな住空間
生活の中で移動するという日常自体が非日常的な体験となる。
身体の移動をデザインした階段状の床は、時の流れをデザインした光で彩られた。
この住宅の立つ土地は雪国である。そのため、なにはともあれ冬期でも暖かな日当たりのよい明るい家であることが重要であった。また、施主からは、斬新なデザインの家であってほしいが、ガルバリウム鋼板のような工業材料を使うデザインではなく、むしろ、職人の手跡が感じられる将来まで古くさくならず飽きがこないデザインが求められた。その上で、更に、+αの特徴と、それを実現するアイデアをと、盛りだくさんの要望が求められている。
この家の外壁は最新のひび割れ防止の対策を施したモルタルの壁面とし、フラットに塗り込めた上でツヤを落とした黒色で塗装されている。吹きつけ塗装ではなく、ローラー塗装とされた壁面はきわめて平滑に仕上げられ、まさに職人の技術のおかげで実現されている。このモルタル壁面は歳月とともに落ち着いた色合い風合いとなっていくことだろう。
この住宅の最大の特徴は、住宅の既成概念にとらわれないダイナミックな内部空間にある。構成上はスキップフロアとなるが、建物の内部空間はリビングとダイニングそして予備室までがひとつの空間として連続しており、それらは大きな階段で連結されている。大階段の段差はとても緩やかで、階段というよりはむしろフレキシブルに活用できる床として設計しいて、おもいおもいに別々のフロアとして利用できるよう考えられている。また、階段床にはあらかじめ映像設備が配線してあり、プロジェクターを設置して壁に投影すれば階段部分を座席とした大きなシアターにもなる。
さらに、斜めの床の効果で冬場の太陽高度の低い時期でも南側からの光が部屋の奥まで導くことを実現し、明るい部屋となった。そのうえで、+αの特徴として、本来は風雪を防ぐための機能材である防雪板が開口部に張られている。積雪時に窓を防ぐ効果があるのはもちろんだが、積雪のない時期にはそのパンチング素材により生み出される光と影は時間とともに変化する複雑な日当たりとなり、空間を華やかに彩る効果を意図している。
この家では、普段、部屋を移動するたびに、常に視線が上下に移動する感覚が生まれる。移動という日常の行為そのものが非日常的で刺激的な体験となるのである。