新しいのにどこか落ち着いた雰囲気の住空間
限られた敷地の中で外部への広がりのある住宅を構想する。
今回の計画でお施主さんからは第一に快適であること。そして、斬新であってほしいが、どこか懐かしい印象。の2点を求められた。ヒアリングを重ねると、どことなく落ち着いた印象、懐かしい印象、上質なスタンダードなどといったキーワードが頻繁に語られ、少しちがったニュアンスの斬新さをお好みであるという印象を強く受けた。設計にあたっては特に、施主と価値観の共有を図ることに注意を払った。言葉で語られた曖昧なニュアンスを正確に捉えるよう繊細な感覚をもって打ち合わせを重ね、仕上げ素材や色彩計画をまとめている。
敷地は熊本市の中心街、熊本城にほど近いかつては武家屋敷が建ち並んだ閑静な住宅地だが、前面道路からは少し奥に引き込んだところにあり、周辺の昔ながらのお屋敷に囲われた印象とは違い、そこだけはむしろ人工的に整備された環境にある。市街地に近い住宅地の共通の宿命として、隣地からのあきを確保して設計することはなかなか難しい。それでも注意深く見てみると活用できそうなスペースも見えてくる。具体的には東側には隣家は手入れされた広い芝生の庭が広がっていて、建物までの距離がとれていた。西側の一角からは敷地の隙間を通して、遠くの山まで望める隙間がある。などである。それら敷地の特性を生かしながら計画を進めた。
鉄筋コンクリート造の2階建ての建物は東側に設けた中庭をコの字型に囲うように配置される。駐車場の横にあるトンネル状のアプローチ空間を抜け、いったん中庭に出てから玄関に至る。アプローチトンネルの奥には明るい緑あふれた中庭空間が広がっており、この住宅を訪れる人にちょっとしたサプライズをもって迎える。中庭は緑化された2階のテラスとともに立体的な庭(自然)を構成。1Fと2Fのテラスをずらすことでより開放的な空間となっている。上部には木製ルーバーのスクリーンが設置され、複雑な光と影を中庭におとすようその位置や角度を厳密に検討している。自然を取り入れるための仕掛けとして町家的な発想と昔ながらの土間縁側の感覚をとり入れ、全ての部屋は中庭から光を導き、風が抜ける仕組みとなっている。また、2階テラスに面した浴室空間はお施主さんお意向をふまえガラス張りで露天風呂感覚を実現しているが、目隠しルーバーの角度は隣家からの視線に対しては壁となりプライバシーを確保している。
インテリアではエアコンは一台も設置せず、空調設備として家全体にPS設備を完備。大きな気積を有した間仕切りのない快適な空間が可能となった。ひとつながりの空間でありながら、リビングは少しだけ床レベルを下げ開口部を絞ることで落ち着いた雰囲気とする一方、ダイニングは大きなガラス面から光をとりこんだ明るい吹抜空間となっており、場所によって空間の性格を変えている。階段と廊下は吹抜空間を回るようにレイアウト。人の動きをデザインすることで日常生活の中での変化を演出している。床は1階を無垢のウォルナット、2階はチェリーと階によって色味を使い分けている。壁は統一して少しだけグレーを入れたホワイトに調色した内装用の漆喰をコテで塗り、職人の手跡が感じられる上質な仕上げとしている。